COLUMN ── 012
この記事の要点
健康経営は認定を取ることが目的になりがち。まず「今すでにある数字」を数える。有給取得・残業・健診受診・離職の4指標と、数え方を先に決める手順を図解で。
「健康経営、うちもやったほうがいいですよね」と相談を受けることが増えました。そして、だいたいその次に出てくるのが「認定を取るには何をすればいいですか」という質問です。
気持ちはとてもよく分かります。ただ、ここで順番を1つだけ入れ替えると、その後の一年がずいぶん楽になります。施策を選ぶ前に、今すでにある数字を数える。今日はそれだけの話です。
認定制度から入った現場で、よく見かける流れがあります(経験則)。
① 申請書の項目を見て、埋められそうな施策を選ぶ。
② 実施の記録は残る。ポスターも掲示した。研修もやった。
③ でも「職員の状態が変わったか」は誰にも分からない。翌年、同じ施策を繰り返す。
悪気があってこうなるわけではありません。比較する基準点(ベースライン)がないから、変化を語れないだけです。ベースラインとは、施策を打つ前の状態を表す数字のこと。ここが空白のまま走り出すと、成果も失敗も判定できません。
健康経営優良法人などの認定制度に触れる場合、本コラムでは具体的な認定要件・評価項目には立ち入りません。要件は改定されるため、申請を検討する際は最新の原典(制度の公式資料)でご確認ください。
では何を数えるか。新しい調査票を配る必要はありません。すでに労務・総務の手元にある数字から、4つだけ選びます。
この4つを選ぶ理由は3つあります。すでにある(新しい調査の負担がない)、角度が違う(休養・負荷・自己管理・結果という別の側面を見ている)、現場の実感と突き合わせられる(数字が動いたとき「そういえば」と言える)。
健診は「受けたかどうか」だけを数えます。検査値・所見・診断名は健康経営の集計データに混ぜないでください。産業保健の枠組みの中で、権限のある担当者だけが扱う情報です。
ここが本題です。同じ「有給取得率」という言葉でも、数え方が違えば別の数字になります。去年と今年を比べたいのに、数え方が変わっていた──これが最も多いつまずきです。
数える前に、次の5つを紙1枚に書いて決めておきます。
そしてもう1つ、小さな組織ほど大事な約束があります。人数の少ない単位で数字を出さないこと。5人の部署で「離職1人」と書けば、それが誰かは全員に分かります。目安として、集計単位が5人未満になるセルは公表しない・より大きな単位にまとめると決めておくと安全です。数字を扱うことが、職員の居心地を悪くしては本末転倒です。
順番を図にすると、こうなります。
③の「現場と見る」を飛ばさないでください。数字は解釈がついてはじめて意味を持ちます。有給取得が低い理由が「休みにくい空気」なのか「そもそも人が足りない」のかは、数字だけでは分かりません。数字は会話の入口であって、結論ではないのです。
この「先に測る単位を決める」という発想は、AIやDXの小さな実験でもまったく同じです。あわせて「小さく試す」の“小さく”を、数字で定義するもどうぞ。経営数値そのものの物差しについては、「無借金」より「無保証」で扱っています。
4指標を一度にそろえる必要はありません。まずは有給取得だけを、去年と今年で並べてみる。それだけで「うちは去年より休めているのか」という問いが、感覚から数字に変わります。
できていなくても大丈夫です。健康経営は、立派な施策を先に用意する競争ではありません。自分たちの状態を、自分たちの言葉と数字で語れるようになること。その最初の一歩が「数える」です。
この記事は、現場の実践から生まれています。
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