TALK ── 005
この講演の要点
DXの目的は、記録を早く終わらせることではありません。効率化で生まれた時間・情報・技術を、これまで届きにくかった支援へ再投資するところまでが本題です。院内の困りごとから始め、小さく試し、患者・家族・地域へ返していく——その循環を、実際の実証と一つの症例から話しました。
効率化それ自体は目的になりません。生まれた余白を何に使うかで、DXは「IT導入」にも「ケアの再設計」にもなります。院内で完結させず、患者・家族・地域まで流れていく循環として設計しました。
ありがちな順番は「新システム導入 → 使い方説明 → 現場が合わせる」。これを逆にして、現場の困りごと → 小さく試して効果を見る → 改善して広げるにしました。対象は診療に限らず、文書・労務・会議・教育まで含めます。
「便利です」と説明しても現場は動きにくく、デモを見せても自分の業務への転用は想像しづらい。自分の言葉・自分の困りごとを入れて触ったときに、はじめて当事者意識が生まれます。肝心なのはAIを教えることより、職員が触るまでの敷居をどれだけ下げられるかでした。
実際、触った後に現場から出てきた「種」は4領域に広がりました。記録・文書(カンファレンス記録、看護サマリー、インシデントレポート)、患者理解・診療支援(心理検査結果の説明資料、クライシスプラン、退院支援会議の整理)、教育・人材育成(研修資料、理解度確認問題、新人向け手順書)、業務改善・管理(業務改善提案書、チェックリスト簡素化、集計・転記の簡素化)。※ 実運用・実証中・職員提案・検討中を含みます。
ここを曖昧にすると現場の信頼を失います。AIが判断を代替するのではなく、人が確認・修正・最終判断をする——という線を先に引きました。
障害福祉サービスの利用に慎重で、精神保健福祉士との関わりを避けていた方がいました。表面的には「利用したくない」=拒否にも見えます。しかし対話を重ねると、しんどさの正体は「この先、自分がどうなるのか分からない」——見通しのなさでした。
そこで、公開されている制度情報をAIで整理し、本人向けに流れ・準備・選択肢を資料化し、精神保健福祉士と制度・運用面を確認・修正したうえで、読み返せる形で本人へ渡しました。結果として本人から「次はこういう資料がほしい」という新たな支援ニーズが出てきたことが、いちばんの収穫でした。
必要だったのは制度の説明ではなく「見通し」でした。不確実性(何が起きるか分からない)を、構造化・翻訳(現在地・手続き・選択肢を本人の言葉に)を経て、自己決定(読み返せる・次に欲しい支援を言える)へつなぐ。AIの価値は資料を作ることではなく、本人に必要な情報を、届く形へ変えられることにあります。
※ 症例情報は発表用に必要最小限へ一般化した単一症例の観察的経過であり、個人が特定される情報は含みません。因果関係を示すものではありません。センサー・音声入力の実証はいずれも企業との共同実証で、個別の企業名・製品名は本抜粋版では割愛しています。
この資料は、実際の登壇から生まれています。
MITSUNOWA MEDIA & LAB の記事・資料は、精介AIコミュニティで持ち寄られた「やってみた話」が元になっています。読むだけの参加も歓迎です。