TALK ── 006
この講演の要点
MBC(測定に基づく診療)が続かないのは、意義がないからではありません。測った後の導線が設計されていないからです。紙の配布・採点・転記・比較・保管・説明まで含めると、正しい取り組みでも日常診療には重くなる。そこで「紙 × 待ち時間 × 簡易ツール」のハイブリッドを試作し、待ち時間を「評価の時間」に変える運用を考えました。講演では実際にツールを動かしながらお話ししています。
症状を数字で扱うのは、診療を機械化するためではありません。「最近どうですか?」だけでは、何が良くなり何が残っているかが曖昧になりやすい。症状・生活機能・服薬状況・副作用を分けて確認し、患者と共有するための共通言語が要ります。
問題は、その後です。紙を配る → 記入を待つ → 採点する → カルテ保存 → 前回比較 → 患者へ説明。この6工程が診療時間を削り、紙の保管やスキャンが積み上がり、担当外の医師は経過把握に時間がかかる。measurement より implementation が難所でした。
そこで紙を全部やめるのではなく、紙の強みだけ残しました。受付で本人確認をして手渡せるので取り違えを防ぎやすく、待ち時間に回答してもらえる。診察室では回収と本人確認だけを行い、点数計算・経時比較・項目別の変化・記録文の下書きはツールに任せます。
扱うのは患者コードのみで、氏名・生年月日・カルテIDは入力しません。端末内で動作し、外部送信も自動保存も行わない。患者ごとに1つのデータファイルを持ち、診療のたびに「読み込み → 追記 → 更新版を保存」で運用します。正式な記録は、医師が確認したうえで電子カルテへ。ツールの出力はあくまで下書きです。
画面に出るのは4つだけです。担当外の医師でも経過を追える概要カード、初回・前回・最新がわかる合計点の推移、「どこが動いたか」を掘り下げる項目別の変化、そして記録文の下書き。合計点が下がった、で終わらせないための構成です。
MBCを「採点」として使うと、患者にとっては測られるだけの時間になります。たとえば合計点は改善したが睡眠は残っている、という場面で「前回より全体は良くなっています。一方で睡眠はまだ残っていますね」と一緒に確認する。そこから薬物療法の評価も、生活上の困りごとの確認も、次回診察の焦点も具体化しやすくなります。
振り返るのは症状(抑うつ気分・興味・睡眠・疲労感)/生活機能(就労・家事・対人関係・生活リズム)/安全性(服薬状況・副作用・身体症状)の3つ。「効いた/効かない」を合計点だけで終わらせないための分け方です。
ここを曖昧にすると臨床での信頼を失います。ツール本体は決められた尺度とルールで動きます。生成AIを使ったのは「現場が小さく試作する」ためであり、実臨床での判断主体は医師です。
この試作は、売るためのものではありません。電子カルテに求めたい機能要件を、現場の言葉で具体化するためのものです。MBC入力・経時グラフ・項目別変化・申し送り生成・カルテ記録が電子カルテ内で一体化すれば、こうした個別の試作は要らなくなります。作りたいのはツールではなく、要件の言語化でした。
そしてこれは、AIの話の前段でもあります。音声入力・スキャナー・フォーム・簡易ツールで、紙と会話をまずデータとして扱える状態にする。全員に高度なAIを使わせるより、全員が使える「入口」を先につくるほうが、現場では前に進みます。
※ 本抜粋版の9項目は、うつ病の代表的な症状領域を確認するための簡易フォーマットです。正式な評価尺度を用いる場合は、原典の項目文・採点方法・使用条件(著作権/使用許諾)を確認し、院内ルールに従ってください。参考にした考え方の出典(学会ガイドライン等)は資料内に明記しています。記載内容は各原典をご確認ください。
この資料は、実際の登壇から生まれています。
MITSUNOWA MEDIA & LAB の記事・資料は、精介AIコミュニティで持ち寄られた「やってみた話」が元になっています。読むだけの参加も歓迎です。