CASE ── 003
この事例の要点
名刺交換のあと、相手は「検索して・思い出して・肩書きを確かめて・メールを書く」という作業をしています。その負担を、相手が普段使っているAIに手伝ってもらう名刺を設計・実装しました。QRにはURLではなく、人間が読んでも意味の分かる「AIへの案内文」を格納。連絡先はQRに焼き込まず、Web上の本人公認プロフィールを原本にする——だから連絡先が変わっても名刺を刷り直しません。着想から印刷・実機検証まで1日。つまずきも全部書きます。
名刺は「渡すこと」がゴールになりがちです。でも実際のコミュニケーションは渡した後、相手側の作業として始まります。この人は誰だったか、何をしている人か、連絡先はどれか、お礼はどう書くか。ここが面倒だから、名刺交換の8割は次につながらない——自分自身がそうでした。
いま多くの人が、その種の作業をChatGPTやClaudeに手伝ってもらっています。なら、名刺の側が最初からAIに読まれる前提で作られていればいい。それがこの実験の出発点です。
QRコードにプロフィール全文を詰め込む案から始めましたが、途中で方針を変えました。最終形はこうです。
① QRには「AIへの手紙」を入れる ── 機械的な命令文ではなく、人間が読んでも意味の分かる自然な日本語+公式プロフィールのURL。読めない場合の代替URLも段階的に案内する。
② 連絡先はQRに焼き込まない ── メール・所属・肩書きはWeb上の本人公認プロフィール(AI向けページ)を原本に。変更はWeb側1か所の更新で済み、名刺は刷り直さない。
③ AIへの指示に安全弁を入れる ── 「記載のない実績を推測しない」「本人になりすまして署名しない」「メール案には宛先アドレスを必ず明示する」。
④ 検証は「AIに読ませてみる」 ── ブラウザで見えることと、AIが読めることは別問題。実際にChatGPT・Claudeに渡して通しで確認する。
最大の壁はここでした。QRから誘導した自分のプロフィールページを、AIが読めない。調べると原因は1つではなく3つ重なっていました。
(1) 本文がJavaScript頼みだった。ページの本文を表示後にスクリプトで読み込む構造だったため、スクリプトを実行しないAIには「読み込み中…」しか見えていませんでした。人間のブラウザでは完璧に見えるのに、です。
(2) CDNがAIをブロックしていた。サーバー側の管理画面を見ると、Anthropic(Claude)系のアクセスが「許可0件・失敗16件」。AIクローラーを既定でブロックする設定が有効になっていました。
(3) AIごとに読む力が違う。設定を直してもGoogleのAI検索は読めませんでした。これはサイト側の問題ではなく、その場でURLを取得しに行く機能をほぼ持たない設計だからです。
対策は「静的×多形式×クローラー許可」の三点セット。本文を最初からHTMLに埋め込み、同じ内容をプレーンテキスト版・Markdown版でも並列公開し、CDNのAIボット設定を許可に変える。1つのURL・1つの形式に依存しない冗長化です。
容量の壁。日本語はQRの中で1文字3バイト。丁寧に書いた案内文はすぐ過密になり、一度は印刷限界を超えました。「QRを大きくする」のではなく「文章を短くする」を原則に、最終的に827バイト・データ部34mm・シミュレーション上は12mm角まで読める余裕に収めました。
なりすましの壁。通しテストで、ChatGPTが「名刺を受け取った人がお礼を書く」のではなく、私本人になりすまして私の署名でメールを書いてしまいました。プロフィール側の指示文に「主方向は受け取った方から本人宛て。本人の名前・肩書きで署名しない」の一項を足して解消。名刺は1文字も直していません——原本をWebに置く設計の強さが、バグ修正で最初に実証された形です。
2026-08-29時点で、次のすべてを実機で確認しています(いずれも実測)。
印刷した名刺のQRをスマートフォンで読取 → 表示された文章をClaude・ChatGPTに貼付 → AIが公式プロフィールを自力で取得 → 人物を理解し、宛先メールアドレスを明示した、なりすましのないお礼メール案を作成。QRの機械検証は2種類のデコーダ×複数サイズ・傾き・暗所相当まで全条件一致でした。
この一連の流れ(プロフィール基盤づくり→QR設計→デザイン→検証)は手順書化しました。名刺は器のひとつにすぎません。「AIに読まれる前提の一次情報を、自分の側に持つ」という考え方は、採用ページ・施設案内・登壇プロフィールにもそのまま使えます。次は、この型を自分以外で試すことです。
この事例は、ミツノワ自身の実装記録です。
MITSUNOWA MEDIA & LAB では、実際にやってみた取り組みを、失敗やつまずきも含めてそのまま公開しています。うまくいかなかった16連敗も、次の誰かの近道になります。